さくら水産の閉店ラッシュの理由とは?“復活への一手”についても調査

グルメ雑談

消えゆく「庶民の味方」──なぜさくら水産は激減したのか

500円という破格のランチを提供し、学生やサラリーマンの胃袋を支えてきた「さくら水産」。かつては全国160店舗近くを展開していたこの海鮮居酒屋チェーンが、いまや全国で11店舗にまで減少しています。

この「さくら水産 閉店ラッシュ」の背景には、単なる経営不振では語りきれない、複雑な要因が絡み合っています。

本記事では、最盛期から急激に店舗数が減少した経緯を解き明かすとともに、現在のさくら水産が目指す再出発の姿、そして同ブランドの“記憶”がもたらす功罪について掘り下げていきます。


圧倒的コスパを誇った500円ランチの衝撃

さくら水産といえば、やはり「ワンコインランチ」が代名詞でした。
焼き魚や刺身などの日替わりメインに、ご飯・味噌汁・卵・海苔・漬物が食べ放題。これで税込500円という価格は、今の時代では到底考えられません。

このランチは2000年代前半からスタートし、安さを売りに急速に店舗数を拡大。その勢いのまま、2010年には約160店舗を達成します。筆者も大学時代、何度もお世話になりました。

ただしこのランチ、実は“赤字前提”だったのです。

  • 原価率は50%
  • 人件費比率は30%以上
  • 残る利益は10%程度

つまり、採算度外視でありながらも、「夜の居酒屋利用に繋げる導線」として設定された価格戦略でした。安さで集客し、夜で稼ぐ。いわゆる“薄利多売モデル”です。


2010年を境に崩れ始めた「安売りモデル」

ところが2010年前後を境に、このモデルが通用しなくなります。

  • 2008年:リーマンショックで企業の宴会需要が激減
  • 2010年以降:働き方改革が進行し、大人数での飲み会文化が縮小
  • 団塊世代の退職により、主要な客層が減少

これらの変化は、さくら水産にとって大きな痛手でした。
安くても集客できる時代が終わりを告げ、薄利のままでは利益を維持できなくなったのです。

加えて、設備の老朽化も深刻化。多くの店舗が築年数を重ねる中、改装やリニューアルに踏み切るだけの資金力が足りず、不採算のテナントから撤退する流れが加速していきます。


安さゆえの“記憶”がブランド改革の足かせに

さくら水産の失速を語る上で忘れてはならないのが、「安すぎた記憶」の存在です。

現在のランチ価格は1100円〜1480円と、かつての倍以上に上がっています。しかも、おかわり自由の卵・海苔・味噌汁などは姿を消し、サイドメニューも値上げ。

もちろん、食材の質や調理法は向上しているものの、「さくら水産は安い」という強烈なブランドイメージが、顧客の期待値との乖離を生んでしまったのです。

運営会社テラケンの野田代表は、「高付加価値戦略にシフトしたが、過去のイメージが強すぎて企業努力が届かなかった」と振り返ります。


買収・コロナ・撤退──苦境が続いた10年間

2015年、さくら水産は投資ファンド「アスパラントグループ」に買収され、続く2019年には「梅の花グループ」傘下に入ります。

これにより、価格帯を上げた高品質路線への移行を進めましたが、思うような成果は得られませんでした。さらに直後にコロナ禍が襲い、夜営業を柱にしていたさくら水産は再び大打撃を受けることに。

こうして、2025年現在、さくら水産の店舗数は11店舗にまで減少。“閉店ラッシュ”は、まさに止むを得ない判断の連続だったのです。


今のさくら水産は“普通の居酒屋”なのか

現地調査で訪れた原宿竹下口店では、ランチタイムでもサラリーマンの姿は少なく、客層は若年層や観光客に近い印象でした。

夜の居酒屋利用では、2人で料理6品+ソフトドリンクで約5300円。客単価は3200円〜3300円が主流になっています。

味やサービスは申し分ありませんが、かつての“圧倒的な価格破壊”を知っている世代にとっては、「無難な海鮮居酒屋」に映ってしまうかもしれません。


生まれ変わる兆し『魚がイチバン』にかける希望

そんな中、新たに推し進めているのが、新業態「魚がイチバン」の展開です。

元さくら水産だった3店舗を改装し、2023年から業態転換。これが功を奏し、売上はコロナ前比で以下の通り伸長しています。

  • 九段靖国通り店:150%
  • 横浜日本大通り店:130%
  • 西新宿駅前店:110%

内装・メニュー・価格帯のバランスを再設計し、特に女性客や若いカップルをターゲットに成功を収めつつあります。

この結果を受けてか、さくら水産としての新規出店予定は現時点で「なし」。ブランドそのものの再生よりも、“看板を掛け替えて中身を刷新する”戦略に移行しているのです。


「安さ」は武器であり、呪縛にもなる

さくら水産の歩みを振り返ると、時代の空気に敏感に適応しながらも、「過去の栄光」が時に足かせになる現実が見えてきます。

ワンコインランチで一世を風靡したその実績は、確かに素晴らしいものでした。しかし、それに囚われすぎると、時代の変化に乗り遅れてしまう。

飲食業界において、「記憶に残るブランド」は非常に強力ですが、それが変化を拒む“呪縛”になってしまうこともあるのです。


再起をかけた一手に期待を寄せて

さくら水産は今、ひとつの大きな分岐点に立っています。
看板を新たに、「魚がイチバン」というブランドで再出発を図りながら、かつての遺産をどう活かしていくかが問われています。

これまで500円で満腹にしてくれたあの店が、再び新しい形で「お得感」を提供できるようになるのか。

私たちの記憶の中にある“さくら水産”と、これからの“魚がイチバン”。
その両者のバトンリレーが、どんな未来を切り拓くのか、今後も目が離せません。

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